1 「GIGAスクール構想」
さいたま市教育委員会は「今までの一斉授業は賞味期限切れ」だとして、毎日毎時間タブレットを使って授業をするように各学校に指示している。背景には、全てのモノがインターネットとつながりビッグデータやAIを活用すれば経済が発展するという「Society5.0」の考えがあるが、「これにより社会問題まで解決できる」というバラ色の社会観を疑問視する声も聞かれる。「GIGAスクール構想」の問題点として、民間事業者が容易に参入できる、「個別最適化」という名のもとに教育が自己責任化され格差が広がる、子どもたちの成績はおろか生活態度まで個人情報として蓄積される等が指摘されている。国内外の専門家も次々と脳の発達、学力低下、健康被害等の問題に警鐘を鳴らしている。
2 小中一貫「義務教育学校」
武蔵浦和駅周辺の大規模校を「解消」するために国内最大級(3600人)の小中一貫校を作る計画。2028年開校予定で学年編成は4・3・2制。市民への説明がなく、異年齢の豊かな交流が持てない、マンモス校で目が行き届くのか、広域学区による登下校の不安などの声が上がっている。先行のつくば市でも小6卒業式がないなど問題点が多いことから「もう義務教育学校はつくらない」としている。この計画には年間20万人が利用する沼影プールを壊すことも盛り込まれている。
3 「さいたま市英語日本一」の名のもとに
さいたま市は、全国の政令指定都市で「日本一」たくさんの民間試験を受けさせている。このスコアを文科省の報告に使ったり、各学校や英語教員の序列化に使ったりすることができる。さいたま市で小6から中3までのいずれかの1年を過ごすと、児童生徒の得点や個人情報(氏名、生年月日、英検等受検歴)は、民間団体に永久に保管されてしまう。英語科は今、どの教科より顕著に民間事業の参入と個人情報の提供が問題となっている。
中学校 英検IBA(えいけんアイ・ビー・エイ)
市内全中1,2,3が実施。Reading,Listeningの2技能効果測定。示されるスコアから実用英語技能検定の英検級レベル判定(一次)ができるという。このテストは通常一人あたり500円の試験料がかかるが、「さいたま市教育委員会との取り決めにより」英語検定協会が費用を負担している。なお、さいたま市はこの試験の結果から「英検3級合格層」の人数を文科省に報告しているため、ダントツの「英語日本一」となっているようだ。
中学校 ベネッセGTEC(ジーテック)
市内全中2が実施。4技能効果測定。2020年の予算では5565万円を計上。試験の結果をふまえ、ベネッセが毎年各学校の担当教員を「指導」する。東京都では、来年度の高校入試にベネッセスピーキングテストの導入が予定され、都教委もベネッセに名前や顔写真の個人情報を提供しなければテストを受けられない(入試で加点されない)としている。ベネッセは個人情報の管理において過去に2000万人以上の情報漏洩がある。かねてから利益相反と指摘されながら、自社の英語試験の対策本を出版し利益を得ている点も問題だと思われる。すでにさいたま市とのつながりが深いベネッセ。今後の動向が懸念される。
小学校 英検ESG(昨年までの名称は英語トライアル)
市内全小6が2020年から実施。Reading,Listeningの2技能効果測定。市教委は昨年度の分散登校期間中に市内全校での実施を決定。テストの個人情報の収集欄は回答欄よりも広く、生年月日、氏名(漢字、かな、ローマ字)民間試験受検歴等を記入させる。英検によると、学校単位で個人情報を記載しない場合には試験自体を受けられないとのこと。学校には学校平均点のほか児童の1位から最下位までの順位表などが送られる。市教委はこのテストの目的を「カリキュラムの見直し」「指導の充実を図る」と言っていることから、個人情報の収集や児童の序列化は必要ないと考えられる。
4 学校プールの削減
コロナ禍が続く今年度(2021、令和3)、さいたま市ではモデル校に水泳指導を民間委託させることを決めた。
ある中学校では、水泳開始2週間前、保護者に近隣のフィットネスクラブに学年ごとに6月末から11月初めまで毎週指導を委託することを知らせた。この5か月に及ぶ水泳期間中は時間割が特別に組まれるなど、準備や調整にかかる教員の負担増も心配される。市教委はプールに係る維持費の額を前面に挙げ、今後本格的に学校プールを削減していく方針だとしている(「隣接する学校で1つのプールを共有して活用」「民間委託」)。こうした大きな方向転換に対して、現場では学校としての意向を聞かれたことも話合いが持たれたこともない。